物語は忘れた記憶でつくられる
インスタレーション, 2024
本を一冊読むと、膨大なページ数と文字数を経てきたにもかかわらず、私たちの記憶に残るのはほんの数ページ、数十行に過ぎない。 この作品では物語が記された本の中で特に記憶に残っている部分を抜き出し、木に吊るすことで、忘れてしまった部分との対比を浮き彫りにした。本を読み進めるほどに、私たちは過去に通り過ぎた大量の文字が、枯れ葉のように記憶から抜け落ちていく様子を目にしている。
Photo by Chiharu Saito
物語は忘れた記憶でつくられる
インスタレーション, 2024
本を一冊読むと、膨大なページ数と文字数を経てきたにもかかわらず、私たちの記憶に残るのはほんの数ページ、数十行に過ぎない。 この作品では物語が記された本の中で特に記憶に残っている部分を抜き出し、木に吊るすことで、忘れてしまった部分との対比を浮き彫りにした。本を読み進めるほどに、私たちは過去に通り過ぎた大量の文字が、枯れ葉のように記憶から抜け落ちていく様子を目にしている。
Photo by Chiharu Saito
Landscape Dress
印画紙, 2024
特別演習課題作品。カメラオブスクラの原理を用いて、外の風景を暗室内に投影し、その像を印画紙で作ったドレスに焼き付けた。暗室の窓に小さな穴を開けレンズを取り付けると、光が集まることによって反転した像を部屋の壁や物体に映し出すことができる。そこで現れた像を印画紙で作ったドレスに直接焼き付けることで、外の景色を定着させた。
絵本「わたしのワンピース」の場面から着想を得て、目の前の風景が衣服の模様として現れるというイメージを具現化した。外の風景は単に視覚的な情報としてではなく、物理的な形でドレスに残されることになる。カメラオブスクラというシンプルな装置を通じて、外の世界と身体、物質との関係性を捉え直すことを試みた。
千夜一夜の風鈴
インスタレーション, 2024
特別演習課題作品。四つの風鈴と、吹き流しに書かれた『千夜一夜物語』の原文が風を受け、物語が風によって語り直される。異なる4つの風鈴には対応する日本語訳、英訳、アンデルセンの『絵のない絵本』、そして楽曲『シェヘラザード』の一節が吊り下げられており、扇風機が風を送るたびに、風鈴は音を奏でる。その音は異なる文化や時代が交わる瞬間を生み出す。風は単なる自然の力ではなく、物語を翻訳し、再び生き返らせる役割を果たす。風による翻訳の行為を通して、物語が新たな形で響き、再解釈されることを目指した。
さわるこねるつねる
映像, 2024
特別演習課題作品。リュミエール兄弟が映画を発明した当時の撮影条件『1分以内, モノクロ, サイレント, 定点撮影, 無編集, 撮影中のモニター確認なし』で映像を撮影した。映画の黎明期における技術的制約の中での映像表現を行う。映像の中で人体の生々しさを表現したいと考え、皮膚を伸ばす、腹部の柔らかさを足の指で押す、骨の凹みを指で捉えるなどの行為をこの方法で撮影することによって、普段見ている人の体とは別の物体として見せることを試みた。
共同制作 : 江尻 樹、恒吉 優紀、⼿塚 美楽、河端望夢
Uitenpen Ⅰ
サウンドインスタレーション, 2023
オシレーターから出るサイン波の音のみを利用して作成したアンビエント音楽に複数のエフェクトがかかることによって人工的な環境音へと変容する作品。蛇口をひねるとTof測距センサーが反応し変化をもたらす。
すべての音はフーリエ変換という手法によって極限まで分解するとサイン波の音になる。サイン波の音は自然界には存在しないが、耳鼻科の聴力検査や時報など、最も単純な音として日常的に耳にすることができる。また、フーリエ変換の逆をたどれば、理論上すべての音をサイン波から生成することが可能である。
古代ギリシア哲学では万物の根源「アルケー」が探求されたが、万物の音になることができるという意味において、音のアルケーはサイン波であると考えた。3つの蛇口のそれぞれにはタレスが唱えたアルケー「水」、ヘラクレイトスが唱えた「火」、アナクシマンドロスが唱えた「空気」の3つを模した環境音 へと変容する。
Uitenpen Ⅱ
サウンド・インスタレーション, 2024
ずっと芸術に普遍的なもの、揺るぎないものを求めてきた。しかし、もはやアートには普遍など存在しえない。そこにあるのは作品と、それに賛同する信念のみである。信念は集約され文化を形成し、その枠内での常識を作り出すが、一度枠から外に出れば、当たり前だと思っていた普遍はまかり通らないことに気づく。全ての事柄は流れに流れて形をとどめずに変化してゆく。その中で個が何を普遍だと捉え信じるか。人間の信念は一方で芸術へ、あるいは宗教へ、食へ、恋愛へ、ルッキズムへ、様々に発現していく。その様は有為転変 である。UitenpenIIでは、ひとつのサイン波の音のみから音楽や自然音を複数作成した。それらの音は鑑賞者の動きに連動して切り替わっていく。鑑賞者が一人、二人と増えていくに連れ、音は重なりあい、それら音の組み合わせにより一つの環境音楽が完成する。
Model : Yurino Maehata & Miho kaneko
響きを聴く
サウンド・インスタレーション, 2024
宗教儀式における響きの部分を抽出し、ミックスした作品。イスラム教の礼拝、カトリックのミサ、浄土宗のお経、曹洞宗の般若心経を現地でフィールドレコーディングし、編集した。
宗教儀式ではしばしばその宗教について書かれた経典を読み上げる時間が設けられる。それらは共通して音の反響を感じられる場所と道具を利用して行われる事が多い。人は響きと余韻を持つ音に神秘性を感じる。音の分身が漂い、消化されていく様は生物の構造を連想させると同時に、道具や適した空間なしでは作り出すことできない非生物的な現象でもある。なぜ私達は響きを心地よく感じ、欲するのかについて考える。
玉手箱
サウンド・インスタレーション, 2024
国分寺市内の景観の異なる様々な場所で録音した音声を合わせ壺に入れた。また、壺を市内の公園や駅などに設置し、展示ではそれらのドキュメンテーションとともに棚にしまった。
上段の壺は国分寺公園と落ち葉の積もった並木道と飲食店で電話をかける人、中段の壺は駅前の踏切と野川の川辺と大学構内の鳥の鳴き声、下段の壺は市立第一小学校の校庭と大学の講義と自宅でカレーを煮る音の壺が入っている。
国分寺市は街の中心部の賑わいと野川周辺の静けさのギャップを特徴に持つ。この特徴を活かして国分寺の相容れない場所と場所を合わせて新しい空間を作った。開けると音が聞こえ、この世に存在しない別の場所が広がる。
見ざる言わざる聴かざる
映像 , 2024
エリック・サティの『ジムノペディ』が本当に聴かない曲となるための音と映像を考えた。 サティは「家具のような音楽」として知られるように「聴く」ことを目的としない楽曲を作曲した。この考え方は アンビエント音楽、環境音楽の先駆けとも言われている。ただそこに音が存在し、メロディやコード進行を意識して聴かない音楽のためにジムノペディは作曲されたはずであるが、現代、この曲は憂鬱を連想させるような聴かれる音楽として人々から消費されてている。 映像は宮沢賢治の小説の中で銀河に関する文章を ピックアップし曲に合わせて一文づつランダムに画面に出現させた。文字は2時間かけて 漂い蓄積し星屑の散らばる架空の銀河となる。 映像にも音楽にも特別な意味を求めずやがて「見る、読む、聴く」をやめることを目的として作成した。音声は『ジ ムノペディ第一番』を利用し、ピアノの音は雨の音とともに流れ繰り返されるが、次第に雨音が激しくなり聞き づらくなっていく。
Yokohama Spice Market
ボードゲーム, 2024
特別演習課題作品。横浜市内のカレー屋を巡り、南アジア地域から横浜に移住してきた方々に話を聞いてボードゲームに反映させた。彼らには「故郷の1番好きな食べ物」について、その料理の作り方や使われたスパイスの名前を聞き、母国語での会話を録音した。プレイヤーは、そのインタビュー音声やスパイスの香りを手がかりに、料理で使用されたスパイスを当てていくことでゲームを進行していく。
Photo by Mirin Sato